労使トラブル110番
地域労組から「不当配転だ」と言われたが、どう対応するか
Q
業務上の必要性からある労働者(企業内労組執行委員、地域労組副議長も務めている)を他の営業所に配置転換(通勤時間はあまり変わらない)する方針を決め、
労働者にも納得してもらい組合も合意していたところ、突然組合(企業内労組)から「認められない」「本人と直接接触するな」という文書が提出されました。
どうも地域労組が「地域労組の対象ではない地域の営業所に転勤することは許されない」と企業内労組に要請したことが背景にあるようです。
地域労組との合意も必要になるものなのでしょうか?
A
配置転換が不当とみなされる場合とは
配置転換にも、転勤の伴わない職種変更(=異動)と、同一企業内の異なる事業所への配置転換(=転勤)の2種類があります。
一般に人事権、配置転換命令権は使用者側にあり、労働者からの個別の同意まで求められるものではありません。
とくに異動の場合は労働条件の変更に該当しませんので同意は不要です。
転勤の場合は、労働条件の変更となりますので、通勤距離や住居変更の有無等によって少し扱いが違ってきます。
転勤を伴う配転の判断基準に関するリーディングケースとされている判例が、東亜ペイント事件判決(最高裁・昭和61.7.14)です。
そのポイントを紹介します。
① 労働協約及び就業規則に、「業務上の都合により従業員に転勤を命ずることができる」旨の定めがあり、現に頻繁に転勤を行っており使用者の転勤命令権は妥当である。
② 労働者は営業担当者として入社し、勤務地を限定する旨の合意はなかった。
③ 配転命令権の行使が濫用となるか場合とは、Ⓐ配転命令についての業務上の必要性がない場合(高度の必要性までは求められない)、Ⓑ業務上の必要性がある場合でも、他の不当な動機・目的をもってなされたとき(例:組合活動への攻撃)、Ⓒ労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなどの特段の事情があるとき。
この判断基準に照らして、今回の配転の業務上の必要性や労働者が被る不利益の程度を判断することがまず大事です。
地域労組との同意はどこまで求められるか
どうも経過からすると、いったん本人も社内労組も合意したにもかかわらず、地域労組からの意見を受け入れ合意を覆したということと思われます。
貴社がその地域労組との間で何か係争中の案件があり、団体交渉の最中であるなどの特別の事情がある場合であれば、地域労組との間でも納得を得る必要があるでしょう。
しかし、一般的には地域労組との間にそうした関係はなく、日常的に社内労組と交渉等を行っている場合が多く、地域労組との合意の必要性はあまり問題にならないと思います。
また、実態として組合活動に著しい支障をもたらすような転勤であるならば、労働組合法7条の不当労働行為であると労働組合は主張すると思われ、トラブルが大きくなります。
ご質問の例では、たしかに転勤先は地域労組が対象とする地域でないようですが、さほど遠距離でもなく、かつ所属する会社は地域労組対象地域にあります。
あまり「不当配転」「不当労働行為」という主張は成り立たないと思われます。
組合の同意権とその濫用
「本人への接触の禁止」と組合が主張している背景には、「組合の同意権」という考え方があると思われます。
貴社が労働組合との間で「(人事異動等について労働組合と)事前に協議する」とか「組合との同意を要する」等の労働協約の取り決めがあった場合は、それに基づく手続きが必要で、それを無視した人事権の行使が無効であるという判決も出されています。
では、組合の同意権という権利は使用者の人事権にどこまで介入できるのでしょうか。
裁判でも争われているテーマです。
池貝鉄工事件の最高裁判例(昭和29.1.21)では、業務上の必要性を団体交渉の席上で十分に説明し、この説明に対する労働組合の質問及び疑念に十分に答え、
労働者に不利益がある場合の措置も十分な努力を尽くしたと評価されるような状況であれば、そうした使用者側の努力にもかかわらず労働組合が同意しないことは「同意権の濫用」とみなされるとしています。
以上の点を踏まえて、当面、労働組合に対して十分な説明を行い、理解を得る努力を最大限に行ってください。