労使トラブル110番

経営危機に伴い大量の人員削減が必要になったときの手順と留意点


Q
従業員数約2百人の会社です。
3年前から売り上げが激減し、このままの人員を抱えたままではあと2、3年で倒産してしまいそうです。
ある程度資金的余裕のあるうちに30~50名の人員削減をしなければならないと考えています。
アドバイスをお願いします。


A

整理解雇か、希望退職か、退職勧奨か


会社の規模と人員削減の数によって、
整理解雇によるか、
希望退職の募集か、
個別の退職勧奨によるか違ってきます。

大企業の場合で数百、数千の規模で人員削減を行うときは整理解雇による場合が多いようです。

一方、零細企業で数名のときは個別に退職勧奨を行うことで対応できると思います。

貴社の規模の場合、整理解雇を行うほどでもありませんが、
個別の退職勧奨だけでは無理があるでしょうから、よく経営陣でその方法について検討する必要があります。

従業員の納得を得ることが大前提】


いかなる方法を取るにせよ、従業員の納得を十分に得る努力をきちんと行うことがポイントになります。

その際、「整理解雇の4要件」の視点で進めることが大事です。

整理解雇とは経営危機などの場合の普通解雇の一種ですが、
それが妥当であるかどうかを判断する基準として裁判例で確立されているのが「整理解雇の4要件」です
(代表的な裁判例は東洋酸素事件、昭和54.10.29東京高裁)。

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≪整理解雇4要件≫
① 客観的に人員整理を行う業務上の必要性があるか。

② 整理解雇を回避する可能性はないか。
使用者による整理解雇回避の努力がなされたか。

③ 解雇対象者の選定基準に合理性があるか。
使用者によるその基準の適用に妥当性があるか。

④ 解雇手続に関して労働組合などと誠意をもって協議したか。
労働者に誠意をもって十分に説明したか。

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①「業務上の必要性」
…人員整理の必要性が本当にあるのか、財務資料なども公表しなければ納得は得られないでしょう。
 
②「整理解雇回避の努力」
…経費削減や役員報酬の減額などあらゆる手立てを打ってもなお人員削減が必要であるという状況でなければ納得は得られません。

③「選定基準」
…たとえば一定の部署に絞って人員削減するとするならばなぜその部門なのか、
あるいは一定の客観的基準を設けその基準に満たない者を対象とするならその基準が合理性のあるものでなければなりません。

④「誠意をもって協議」
…全従業員を対象に説明会を開催することは当然、状況によっては何回でも開催する努力が必要です。

退職条件の有無・程度


「資金的余裕のあるうちに」人員削減したい、つまり今すぐ倒産するわけではないとのことですので、
今回の退職に応じる者に対する退職条件の設定が必要と思います。
よくある例では、「退職金+6ヵ月分の給与」など退職金に上積みした金額の支給です。

それ以外にも、有給休暇の残日数の付与だとか、有給休暇の法定付与日数を超えた分(会社の独自付与分や時効で消滅した分など)の買い取りなども検討してください。
もちろん雇用保険の離職手続においては会社都合による離職として扱わなければなりません。
できれば再就職先の紹介も行えるといいでしょう。

労働者にとって、次の就職準備を行うための当面の生活が一番気になることですから、最大限の配慮が必要です。

具体的な進め方


具体的な進め方では次のような段取りで行うといいでしょう。

○第一段階
事前準備。
基本方針の作成。
財務資料等の従業員への説明資料の作成。
経費削減や役員報酬の減額など。
人選基準の確認と人選。

○第二段階
従業員対象の説明会の開催。
説明会では質疑・応答もしっかり行い、必要に応じて2回目、3回目も開催する。

○第三段階
希望退職の募集。
この応募に応じる労働者に対しては、より有利な退職条件を設けた方がいいでしょう。

○第四段階
希望退職の募集に応じた方が目標に達しなかった場合には個別の退職勧奨を行います。
その際、相手が断っているにもかかわらず執拗に行ったり、長時間にわたって事実上監禁状態で行うなどは「退職強要」となりますから注意してください。
1人当たりせいぜい1時間程度で済ませ、再度話し合った方がいいときは2回目の約束を取るようにしてください。

避けられるなら、人員削減ではない選択肢を選びたいものです。
また、売り上げ後退の要因を分析し、経営改善に向けた努力が必要であることは言うまでもありません。


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