労使トラブル110番

発達障害が疑われる社員とその家族への対処をめぐる留意点



Q
大卒で入社して1年半経過した職員が、なかなか仕事がうまくできず、職員同士のトラブルとなっています。
発達障害が疑われ、医師への受診をすすめ、受診した医師と面談したところ「サービス業には向いていない、適性に合った配置転換を考えてください」と言われました。
本人は医師の診断に半ば受け入れているようですが、ご両親は十分納得がいっておらず、むしろ会社の仕事内容や指導・対応の仕方に問題があるかのように思っているようです。
今後どのように対応していけばいいでしょうか。



A

本人の自覚と家族の理解が前提


大人の発達障害は就職してから問題になるケースが多いと言われています。
学生のときは成績優秀で活躍していた人が、就職して環境が変わると急にトラブルに見舞われるのです。
大学は学生を配慮する対象として見る場であるのに比して、会社という場は利益を出すことに主眼がありますから、「お客さん」という立場からの脱却を迫られます。

大人の発達障害において一番の課題は就職・仕事となります。
どのような仕事に向いているかは人それぞれ異なるため、なるべく得意な能力が生かせ、かつ苦手なことが目立たないような仕事に就けるよう支援していくことが大事です。
例えば、ADHDの人は精密機械の工場で勤務するのは難しい、自閉症スペクトラムの人には営業は向いていないと言われています。

そうした特性をまず本人が自覚することが大事です。
発達障害の方が社会人として生活するための必要なスキルとは、
①「自律スキル」(自分でやれること、やれないことを判断する力)と
②「ソーシャル・スキル」(他者に相談し、他者からの指摘や助言に耳を傾ける力)といわれています。
それらのスキルを身に付ける第一歩が自己の特性の自覚となります。また、ご家族もよく理解してあげないと、なにかサボっているように見えて、「もっと頑張れ」などというアドバイスが不適切であったりすることがあります。最も避けなければならないのは、発達障害の自覚も理解もないまま職場でトラブルが多発し、その結果、うつ病などの二次的な障害になってしまうことです。


発達障害に対する様々な支援制度の活用


発達障害に対する就労支援も、きちんと職場で理解が得られており、十分な力を発揮できている場合は不要です。
医師の「適性に合った配置転換を考えてください」というのは、そういう検討を会社に求めてのことと思います。

しかし、往々にしてそううまくいかないで、職場でトラブルが続出してしまうケースが多いものです。
医学的な治療(カウンセリングや薬物療法を含む)を優先しなければならないときには医師の指導に従うことが前提となります。
そうした前提を踏まえた上で、活用できる支援制度をいくつか紹介します。

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●発達障害者支援センター
発達障害者とその家族のために総合的支援を行う地域の拠点です。
東京センターは世田谷区船橋。
支援内容は、①福祉の相談支援、②情報提供と他機関との連携、③コンサルテーション(直面している困難な状況の対応などへのアドバイス)、④普及啓発・研修など

●就労支援機関
具体的には①ハローワーク、②障害者職業センター(職業能力評価、職業準備、職場の定着の支援。東京は上野にあります)、③障害者就業・生活支援センター(生活面での支援、就業場所内での訓練、職場環境を整備する支援。各行政区にあります)のことです。

●トライアル雇用(障害者試用雇用事業)制度、発達障害者雇用開発助成金
奨励金の支給、助成金が支給されます。

●障害者雇用促進法における法定雇用率の算定対象に
法改正により法的雇用率の算定対象に精神障害も含まれることになりました(平成28年4月施行)。
障害者手帳の所持者が対象になります。

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退職・転職かの判断を慎重に


発達障害を理由に安易に解雇しようとすると、本人ならびにご家族と会社との間でトラブルになり、会社側が安全配慮義務を果たしていないとされてしまう場合があります。
したがって、まず基本は治療やさまざまな医学的支援の検討、行政の支援システムの紹介などの努力を行わなければなりません。

本人の判断やご家族との相談の中で、退職という結論になった場合も、離職理由については安易に会社都合だとか、自己都合だとか判断せずに、具体的経過・事由を離職証明書に添付してハローワークに判断を委ねた方がいいでしょう。
さらに、転職する場合のアドバイス、支援も最大限に行うようにしてください。


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