労使トラブル110番

変形労働時間制における残業計算の仕方と留意点



Q
弊社は1年単位の変形労働時間制(対象期間は1年間)を採用しています。
この度、労働基準監督署から、「①1日単位、1週間単位、対象期間のそれぞれについて時間外労働を再計算し、②振替の結果発生した残業代も再計算して、3ヵ月間遡及して支払うこと」という是正勧告を受けました。
どういうことなのでしょうか?



A

変形労働時間制における時間外労働の計算の仕方


よくある誤解の一つに、「変形期間トータルの残業を計算すればよい」というのがあります。
「1年単位であれば年間法定労働時間は2,085時間だからその範囲内に収まれば残業代は発生しない」という誤解です。
変形労働時間制における時間外労働の計算は次のとおりです。

①1日については、労使協定により8時間以上の時間を定めた日はその時間を超えた時間、それ以外の日は8時間を超えて労働させた時間の部分。
例えば、月曜日が10時間で定めていたとすれば10時間を超えた時間、火曜日が7時間で定めていたとすれば8時間(7時間ではない)を超えた時間が時間外労働になるということです。

②1週間については、労使協定により40時間以上の時間を定めた週はその時間を超えた時間、それ以外の週は40時間を超えて労働させた時間。
但し、1日単位で計算した時間外労働の時間はダブりとなるので除外します。
例えば、週48時間で定めた週の場合は48時間を超えた時間、週35時間で定めた週については40時間を超えた時間が時間外労働になります。

③変形期間全体を通算する時間については、変形期間(対象期間)を平均し1週間当たりの労働時間が40時間となる労働時間の総枠(1年を変形期間とした場合は2,085時間)を超えて労働させた時間。
但し、1日単位、1週間単位で時間外労働となった時間はダブるので除外します。

以上で計算した時間(①+②+③)が法定時間外労働となり、割増賃金の対象となるということです。
監督署が指摘した第一の点はこのことです。


変形労働時間制における振替の可否と留意点


次に変形労働時間制における振替の問題の考え方です。
この場合、休日と労働日の振替の場合もありますが、労働日同士の変更(例えば1日10時間で設定した日と7時間で設定した日とを変更すること)というケースもあります。

まず変形労働時間制においては休日と労働日の振替や勤務日の変更については、そもそもの制度上限界があることが前提です。
変形労働時間制を採用する条件の一つとして、「労働日とそれぞれの労働日の労働時間についてあらかじめ特定する」というのがあります。
1年単位の変形労働制の場合であれば、1ヵ月の期間ごとに区分するときは1ヵ月のカレンダーをあらかじめ特定する、1ヵ月ごとの区分などができないときは年間のカレンダーをあらかじめ特定しなければなりません。
したがって、通常の業務の繁閑等を理由として休日振替が通常行われるような場合は、変形労働時間制を採用する余地がありません。

しかし、変形制を採用した場合でもやむを得ず休日振替や労働日の変更も行わなければならないことがあります。
これらが全く認められないわけではなく、次のような条件の上でならば、「労働日とそれぞれの労働時間について再度設定した」ということになり、変形制における「特定性」の要件をみたすことになるとする見解があります(安西愈弁護士)。


① 区分期間に入る前(1ヵ月単位で区分している場合はその1ヵ月が始まる前)、もしくは1週間に入る前にあらかじめ、
② 労使協定で具体的な変更振替事由を定めておき、
③ 変更につき事前に労働者代表の同意を得ること、
④ それにより変形制の枠が崩れないものであること


安西氏は、上記の要件を満たせば、たとえ1日10時間の日と休日との振替であっても時間外労働にはならない、A勤務日(8時間)とB勤務日(10時間)との具体的な特定の労働日の変更であっても時間外労働にはならないとしています(『労働時間・休日・休暇の法律実務』)。

なお、厚労省は、「変形期間の途中で変更はできない」旨の通達を出しています(平成6年3月31日基発181号)。
これは変形制自体の途中変更の場合に関する通達であって、変形制自体を変更するわけではないという前提であれば、上記の条件を満たすことによって時間外労働は発生しないということです。

ご質問の監督署による第二の指摘事項については、上記のように労使協定を厳格にすることによって対応してください。



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