時言
戦争PTSD
米海兵隊員としてベトナム戦争に参加し、戦場で恐怖と精神的痛みを負ったアレン・ネルソンさん。彼の自伝をもとにした映画「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」(塚本晋也監督)が連日満席であることが話題になっている。第83回ヴェネツィア国際映画祭でイタリアの高校生が選ぶ「金の小獅子賞」を受賞した。
最初は人を殺すことに躊躇していたアレンが「殺(や)らなければ殺(や)られる」中で次第に殺人マシーンのようになっていく。帰国してからも物音に怯え、悪夢にうなされ、暴力的になり社会生活ができなくなっていく。アレンを診察する精神科医は「なぜ人を殺したのか」と静かに問い詰めていく。
こうした戦争PTSD(心的外傷後ストレス障害)はベトナム帰還兵では30%が発症したとされ、米国では早くから対策が取られてきた。
一方、日本でも戦争PTSDと推測される症状で家族に暴力を振るったり、無気力になったりする夫や父が存在した。最近やっとメディアでも取り上げられるようになり、家族会が全国でつくられている。子ども世代が語る元兵士の父たちによる暴力と家庭崩壊には胸がつぶれる思いだ。近年、国府台陸軍病院に残されたカルテなどが再分析され、太平洋戦争における精神的障害の規模は想像以上に大きかったことが分かってきた。いまも解決していない社会問題としてとらえるべきであろう。
アレンは後年、世界各国で体験を証言した。日本では1,200回にもなる。戦争をしないと誓った日本国憲法9条を知って、心から感動したからだと証言している。
2026年9月