時言
格差社会と特殊詐欺
1. フィリピンを拠点とする特殊詐欺グループの報道が連日続いている。主犯格とされている者たちも30代、40代と若いが、実行犯は圧倒的に20代、10代の若者たちである。狙われるのは60代以上の高年齢者層。若年層が豊かな高齢者層の財産を収奪しているという構図が見える。1日の特殊詐欺被害額は平均約7,730万にまでのぼる。
2. 特殊詐欺を取材している神奈川新聞の田崎基氏は、その著書『ルポ特殊詐欺』(ちくま新書)の中で次のように指摘している。「家計調査報告書」(総務省統計局)によれば、「純貯蓄額」は60歳~69歳の層が2,323万円、70歳以上が2,318万円。負債額が最も多いのが40歳未満。つまり現役時代に住宅ローンを中心に借金して生活し、退職金でローンを完済して、その後一気に貯蓄が増える。豊かな高齢者がその資産を現金、預金で持っている。一方、特殊詐欺で立件された約7割が30歳未満である。
3. 世帯年収を低い順に並べたとき中央に位置する「中央値」は、ピーク時の1996年の約550万円と比べ、2019年は437万円まで低下している。この世帯で育った若者が食っていけるだけの収入源として何を選択していくのか。「1日で10万円稼げる」と言われるとついつい犯罪に手を染めてしまう若者が生まれてしまう。
4. 詐欺事件ではなくても、手っ取り早い収入を得るため風俗に身を投じる女性も多く、「1日2万円」と言われる治験(未認可の薬等の実験対象)のバイトで食いつなぐ方もいる。
根本的に、若年層の生活苦の解決抜きにこの社会現象はなくならないのではないだろうか。
2023年2月