時言
副業・兼業の推進と過労死リスク
1.厚生労働省の「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」は、8月8日、副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する報告書をまとめた。
昨年7月から9回にわたって開催した会議のほぼ結論のようなものである。
2.従来の通達(昭和23.5.14基発第769号)では、
「複数の事業場で労働する場合(事業主を異にする場合をも含む。)、労働基準法の労働時間に関する規制は通算して適用される」
「この場合、法定の割増賃金は、後から契約した事業主に義務がある」としていた。
3.今回の報告では、「労働時間を把握することは、企業にとって、実施することが非常に困難」としたうえで、次のような案を例示した。
①「労働者の自主申告を前提に、通算して割増賃金を支払いやすく」するため、「例:使用者の予見可能性ある他の事業主の下での週や月単位などの所定労働時間のみ通算して割増賃金の支払いを義務付けること」
②「各事業主の下で法定労働時間を超えた場合のみ割増賃金の支払いを義務付けること」
4.上記の①案は、「労働者の自主申告」を前提にしていること、「所定労働時間のみ通算する」としていることからすると、実際の労働時間のカウント義務を免れるものであり、②案は、複数の事業場の労働を通算すること自身を放棄するものである。
全く従来の立場を投げ捨てるだけでなく、結果として過労死を促進するリスクのみ増大させる案である。「働き方改革」とは名ばかりとのそしりを免れない。
2019年8月