時言

安倍政権の「働き方改革」の危うさ

1.第3次安倍政権で「最大のチャレンジ」と位置付ける「働き方改革」。
政府は、働き改革担当相(加藤勝信一億総活躍担当相)のもとに「働き方改革実現会議」を開き、来年3月をめどに実行計画をまとめるとしている。

本来なら厚生労働省が担当する労働問題をわざわざ新設担当相のもとの会議でやる、しかも経営者と労働者の利害が対立する労働問題は、従来の公益、労働、経営の3者同数(各10人)で構成する労働政策審議会で議論し、その答申を受けて決めるというILOが示す国際基準に基づく扱いとなっていたものを変えることになる。

2.長時間労働の是正、同一労働同一賃金を実現する実行計画(ガイドライン)を作るという目的に異論はない。
それをあえて新しい担当大臣と新しい会議の設置でやることを、“安倍内閣は非正規雇用労働者の待遇改善に本気になっている”とみるのは単純すぎるだろう。
すでに、「労政審(労働政策審議会)だと、議論が全く前に進まない」と政府の産業競争力会議の議員である竹中平蔵氏(パソナ会長)は、労政審の3者構成に批判を繰り返してきた。
労働者代表を入れない機関で議論をまとめたうえで、労政審を単なる追認機関としようとしているようだ。

3.一方、厚労省はより長期の働き方を見直す機構として、「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために」懇談会(座長:金丸恭文フューチャー株式会社社長)を発足させ、平成28年1月から数回にわたって会議を開催し、同懇談会はこの8月厚労省に「報告書」を提出した。

同懇談会の開催趣旨は「グローバル化や少子高齢化の急速な進行、IoTやAI等の技術革新の進展により、産業構造・就業構造や経済社会システムの大きな変化が予想される中で、個人の価値観の多様化が進んでいる。…(中略)…そのためには、2035年を見据え、一人ひとりの事情に応じた多様な働き方が可能となるような社会への変革を目指し、これまでの延長線上にない検討が必要である」(開催要綱)というもの。AIの進展等技術革新のあたえるインパクトは大きく、2035年には「時間や空間にしばられない働き方に」なり企業という形も変わり「正社員のようなスタイルは変化を迫られる」、このような社会においては、個人は企業や経営者と「対等な契約」関係になるだろうから、民法のルールの追加は必要であるものの「労働法の枠組みを修正する(労働法の規制の意味が薄れる)」必要がある、そのための新しい労働政策の構築を急ぐ必要がある、雇用保険等の社会保障制度も生活保障ではなく労働移動に役立つものに変える必要がある…。

ここまで空想的で、かつ、労働者の生活や権利の否定、労働法そのものを否定する議論が展開されていることに驚く。
政府の「働き方改革」に危うさを感じる所以である。

2016年8月

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